「がんで転職、4割非正規」にという記事を読んだことがありますか?
昨年2016年4月に、民間の調査会社の三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)がまとめて、日経新聞で大きく取り上げられて話題になりました。
でも、実は、このニュースは労働市場の見方としてはいまいちで、この裏には日本の労働市場が抱えるもっと根本的な問題があるんです。
今回は、このガンで転職すると4割が非正規雇用になるというニュースから、日本の労働市場で本当は何が起きているのかを考えてみたいと思います。
そもそもどういうニュースだったの?
少し前ですが、2016年4月3日のニュースで、
がんになった後に転職した人は14.0%。転職先で正社員だった人は56.2%、非正規社員は43.8%だった。(引用元:日本経済新聞)
という三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)の調査結果が、日本経済新聞に取り上げられました。
体力面で就労が困難や両立ができる制度が不備ということによる転職理由が多く、たとえガンになったとしても、同じ職場で働き続けられるよう、周囲の理解や環境整備が不可欠であるという提言をしています。
病気と転職や労働市場の関係については、どうしてもタブー視されるところがあり、あまりこのような調査を行う機関が少なく、珍しい調査データでショッキングなニュースとして話題になりました。
そもそも本当に病気に優しくない労働市場か?
先にひとつ言っておきたいのは、
「たとえ病気になっても、同じ職場で働き続けられるように周囲の理解や環境整備が不可欠」
という意見に対して、何の異論もありません。
そのとおりだと思いますし、100%その意見は応援したいと思っています。
絶対にそういう社会であるべきだと思います。
ただし、ちょっとデータとしては、世論を煽っているのは事実です。
煽っているのはタイトルだけかもしれませんが、ちょっと大げさかと。
公平に社会で何が起きているのかを見なければなりません。
繰り返しますが、あくまでもこの調査データから見るべき真実を考えたいだけで、病気になっても同じ職場で働くことができる社会にすべきことに、なにも意義を唱えているわけではありません。
その上で、このニュースでは、転職した人がたった14%ということです。
しかも、そのうちの半数以上は、正規雇用で転職できている点です。
つまり、ガンになったとしても、その後転職して、しかも非正規雇用になっている人というのは、
転職した人14%×非正規になった人43.8%=6.132%
で、全体のたった6%強であることがわかります。
しかも、このデータは、全体のデータです。
中高年の数字は反映されていません。
そう考えると、民間企業に意思決定が委ねられている制度の領域としては、かなり先進的なのかと思います。
助成金については、あまり詳しくないですが、助成金とかでも出して、病気になっても働き続けられるような就業規則にしたら助成金をあげるとかにすると、一気に社会的にはこの問題は解決することでしょう。
背後にある労働市場の問題と政策を考える
それよりもむしろ注目すべきは、そもそも正規雇用と非正規雇用間の労働力の移動だと思います。
2016年分の労働力調査を元に見ると、2016年の転職者(役員以外、正規・非正規両方含む)は279万人のうち、
- 正規→正規:22万人
- 正規→非正規:22万人
- 非正規→正規:18万人
- 非正規→非正規:92万人
となっています。
そもそも、ガンにかかっていようがいまいが、正規雇用の人が転職すると約半数が非正規雇用になるんです。
なので、日本社会は、そもそも働いていて病気になった人には、比較的優しい文化があるといえるでしょう。
もちろん、繰り返しますが、それでも全ての人が希望通りに元の職場で働けるような制度は整えるべきです。
ですが、全体としては、病気の人には理解のある労働市場になっています。
むしろ、個人的に着目しているのは、
「正規→非正規が半分もあるのが問題」
という点です。
ただでさえ人口増で労働力が減って、どうやって労働力を確保しようかと政府が一生懸命取り組んでいる中、毎年正社員の半数が非正規雇用に切り替わっています。
もちろん、望んで非正規になる方もいらっしゃいますし、望まずになる方もいらっしゃいます。
その割合はわかりませんが、もし望まず非正規になる方の割合が多いなら、政策としてどうにかしないといけませんね。
でも、それよりも、労働力が減っている中、なぜこの正規→非正規を食い止める政策を打たないのかが重要な視点だと思います。
非正規→正規については、助成金があります。
より安定的な雇用に労働力を移すことで、社会が安定するので、当然そのような政策は取られています。
ところが、どれだけ非正規→正規をがんばったところで、正規→非正規が半分もいるんです。
ここをむしろ食い止めた方が、労働市場全体での労働力の供給や安定には資するはずです。
労働市場に関する経済学者の論文をいろいろ探しましたが、なぜかそういう議論が少ない気がします。
逆に、非正規から正規雇用は、慶應大学の大田聡一先生、東京大学の玄田有史先生、近藤絢子先生の書かれている「解けない氷河」という論文が有名ですが、その他にも多くの論文で非正規から正規雇用への転換の難しさを分析されています。
今後は、逆に正規雇用から非正規雇用への転換が止まらない研究とかもされていってほしいですね。
転職市場を普段見ていて、労働力の確保は、本当に喫緊の課題です。
すでに多くの業界や職種で、人で不足での廃業やM&Aがおきています。
アクハイヤー(
転職しようと思う人に取っては、逆にいままでなら付けなかったポジションにつけたりする絶好のチャンスなんですけどね。
そんな時代だからこそ、逆に非正規にいって自分のライフスタイルを大切にした働き方にいくよりも、正規でいいところを狙って挑戦していくひとが多い労働市場になった方が、日本経済がもっと元気になると思います。
そういう議論がもっと増えてくるといいですね。
まとめ
今回は、「がんで転職、4割非正規」にという記事というニュースをたまたまネット上でみて、そこからその背後にある労働市場の問題について考えてみました。
ただでさえ、人口が現象していく中、人手不足が著しくなってきています。
人が採用できずに苦しんでいる企業が、非常に増えています。
ガンと雇用という話題からはそれますが、そんな中、正規雇用から非正規雇用に転換する人が毎年半数を占めます。
制度的にここを食い止めることが、今後の人口減少社会において、喫緊の課題だと考えます。